ごあいさつ

はじめに

 片手用トイレットペーパーホルダー【トイレのロッコロ】の麓 香 路 ホームページへようこそおいで下さいました。すこし長くなりますが経緯からお話させて頂きます。

 

 私の母は、昭和53年の春54歳にて心原性脳梗塞で倒れ、以降、83歳で亡くなるまで左半身麻痺により不便な半生を過ごしました。当時はまだX線CTさえ開発されたばかりで全国的な普及も無く、九州の片田舎の小病院では出血か梗塞かもはっきりせず「動かさない」治療を続けました。

 私は当時大阪で看護職として働き出したところでしたので、やっとのことで帰省が許され、可能な中規模病院に転院させていただき、リハビリ開始をお願いするといった始末になってしまいました。

 

 初期治療もできず後手ゞゞの対応になり、母には申し訳ない不甲斐ない思いを持ち続けることになりました。

 

 その後CTやMRIの全国的な普及により、脳卒中は梗塞か出血かの判別、急性期治療の発達、そして発症早期からのリハビリテーションの開始が大きな意味を持ち、大幅に回復出来る方々が多くなりました。

 また、脳梗塞の前兆である一過性脳虚血発作発症時には一般人にも

 

「FASTチェック」

 ・FACE(顔)

 ・ARMS(腕)

 ・SPEECH(話し方)

 ・TIME(発症時刻の記録)→ 救急車

 

が啓蒙され、超早期診断治療で予後が大きく改善されてきています。

 



プロトタイプ

(原型)の誕生

 

 

 母の片麻痺は固定的になり、私の関西での結婚式にも出席をためらい、姉が代役を務めてくれました。のちに妹の付添で新居である病院官舎に遊びには来てくれました。しかし、馴染まない水洗トイレでは、トイレットペーパーが切れず 

折り畳めずでトイレからなかなか出て来れないのを見て直感的?に思いついたのが写真のようなロッコロの原型で、主人が直ぐに形にしてくれました。これでもペーパー量の多いロールでは、少しの練習で、

  ・巻き取って、

  ・切って、

  ・膝の上で手から外す

という一連の動作は片手で難無く出来て、「こんながいいな」(このようなものが良いな)と喜んでくれました。当時のものは、ロールが減って軽くなると空回りしたので、ロールは外側の3割程度を使い、残りは家族用へと残していました。



汎用型の開発へ

 母には便利そうだったこの補助具を汎用化して、多くの片麻痺者さまにお使いいただけないか、という思いは当時(三十数年前)からあり、素材の調査研究などはしていましたが私たちには医療従事者として1つの懸念がありました。

 それは、早期リハビリが有効であることが分かってきた中、「健側を使う便利な補助具を使うことにより、かえって患側を使わなくなり、病期によっては患側回復の妨げにならないか」ということでした。

 しかし、ある番組とその後に同内容を詳しく加筆出版された書籍によりその懸念は払拭され、開発に取り組む事にしました。その番組は2011年に放映された、NHKスペシャル「脳がよみがえる-脳卒中・リハビリ革命」であり、また、同タイトルの書籍(参考図書1)です。

 これによると、

 

1)まともなリハビリによる機能回復をせず、日常生活の中で患側動作を無理に行おうとすると「拘縮」などを起し、反って悪化し、回復を困難にすることがある。

 

 

2)脳に負荷を与えない(脳血流を上げない)「ラクな、がんばらない」リハビリや安らいだ生活をおくることが大切である。

 

3)「自分で出来る」喜びがトータルに脳を活性化させ、回復に寄与できる

 

 2)や3)については書籍「奇跡の脳~脳科学者の脳が壊れたとき」(参考図書2)にも回復への重要なポイントとして記されています。この本はアメリカの医学教育を担当する女性脳科学者が、若年にもかかわらず脳卒中を発症し、回復する迄をとても細やかに回顧記録そして病状などの体験をカムアウトされている書籍です。

 これらの内容は私達、医療従事者にも新たな知見でもあり、また、母の言った「気負わなくなってから出来ることが増えたのよ」が理解できることにも繋がりました。

 とともに、健側だけを使う便利自助具も、回復可能な方々にあってもその病期により非常に有用なものだとの考えがまとまり、2013年秋から本格的に企画開発を始めました。そして2016年夏にはおかげさまで特許も頂くことができました。

 

 当然、回復困難な片麻痺となられたり事故などにより片手で生活なされている方々にも、長く便利にお使い頂ければ幸いです。また、骨粗しょう症で女性高齢者に多い、転倒による手首骨折などにおける短期利用にお使いいただける方法も検討したく考えております。



 おわりに

生活の中でのほんの一端にしか寄与できない【ロッコロ】ですが、発症部位や環境などにより運悪く片麻痺が残ってしまった方々には、少しでも「自分で出来る」を味わっていただき、安らぎをもった心豊かな生活により回復に向かわれることを願ってやみません。

 

  2016年秋 琵琶湖の畔にて(改)



(参考図書1)「脳がよみがえる-脳卒中・リハビリ革命」

  ISBN-13:978-4391141061(市川衛)2011/9/4

 

(参考図書2)「奇跡の脳~脳科学者の脳が壊れたとき」

  ISBN-13: 978-4102180211 (テイラー,ジル・ボルト)2012/3/28  の畔にて